米アップルは先週、新しい9.7インチのタブレット端末「iPad Pro(アイパッド・プロ)」を発表した際、大胆な主張を展開した。マーケティング担当フィル・シラー上級副社長は、現在発売から5年以上たつウィンドウズ搭載パソコン(PC)を使用している6億人の消費者は、この新型アイパッドを「PCに代わる究極の製品」とみなすだろうと述べた。
価格はタブレット本体が600ドル(日本では6万6800円)で、キーボード付きケースが150ドル(日本では1万6800円)。合計するとアップルの過去最安の「ノートPC」と同程度だ。
100ドルの「Apple Pencil(アップル・ペンシル)」はアイパッド・プロを究極のメモ端末に変えてくれる ENLARGE
100ドルの「Apple Pencil(アップル・ペンシル)」はアイパッド・プロを究極のメモ端末に変えてくれる PHOTO: DREW EVANS/THE WALL STREET JOURNAL
新型アイパッド・プロは昨年11月に発売された900ドルの12.9インチのアイパッド・プロとは位置づけが異なり、価格面でウィンドウズ・ノートPCの中位機種に真っ向から対抗する製品だ。
そこで筆者はアップルの挑戦を受けて立つことにした。新型アイパッド・プロを米デルの600ドル、11.6インチのノートPC「Inspiron(インスパイロン)」と東芝の430ドルの「Chromebook(クロームブック) 13」と比較してみた。その結果、新型アイパッド・プロは多くの一般的なPC作業をこなせるものの、使い勝手や快適さで大幅な妥協が必要な場合があると感じた。
PCに代わる究極の製品が本当のノートPCであることに依然変わりはないが、アイパッド・プロの長所はノートPCの従来のコンピューティング面での短所を補って余りある。
iPad Proで事足りるとき
新型アイパッドが旧型アイパッドよりも優れているのは明らかだ。しかし意外なことに、メモを取ったり、ウェブを閲覧したり、音楽を聴いたり、ビデオ電話をしたりといった基本的な作業については、アイパッド・プロは大半のノートPCと比較しても優れている。アイパッド・プロはトースターのトレーほどのサイズで常時電源をオンにしておける上、サイズが2倍ほどのノートPCと比べて処理速度が2倍だ。
アイパッドに初めてローズゴールドが加わった ENLARGE
アイパッドに初めてローズゴールドが加わった PHOTO: DREW
EVANS/THE WALL STREET JOURNAL
アップルの「A9X」プロセッサーと2ギガバイトのRAMが搭載されたiPad Proは、ウィンドウズ10と「Core(コア) i3」プロセッサー搭載のデルのノートPCよりも、ウェブ閲覧や複数のブラウザータブの処理が高速だった。それに比べ、アイパッド・プロにほぼ匹敵するマイクロソフトの500ドルの「Surface(サーフェス) 3」は処理が遅く、バッテリーの持ちも悪かった。一方、東芝のクロームブックはアイパッド・プロと同じくらいスクロールや複数のタブの処理がスムーズだった。
新型アイパッド・プロの9.7インチのディスプレーは、よりサイズが大きいノートPCと並べると小さく見えるが、画質が鮮明で目にもやさしい。新たに採用された「True
Tone(トゥルートーン)」ディスプレーは、光の具合によって青みを抑え白い紙のような色合いに調整してくれるため、電子書籍を読んだり、メールをチェックしたりするのにいい。
重さ500グラム弱の新型アイパッド・プロはクアッドスピーカーも、重さ約1.4キロのデルと東芝のいずれのノートPCよりも音が大きく、豊かだった。また、前面のカメラはビデオ電話の映像がデルのウェブカムよりも鮮明だった。
新たに採用された「True Tone(トゥルートーン)」ディスプレーは青みを抑え、より自然に見せてくれる ENLARGE
新たに採用された「True Tone(トゥルートーン)」ディスプレーは青みを抑え、より自然に見せてくれる PHOTO: DREW EVANS/THE WALL STREET JOURNAL
さらに、アイパッド・プロは再起動が不要で、バッテリー駆動時間も長い。筆者はアイパッド・プロで約7時間作業することができた。画面輝度を約65%に設定し、ウェブサイトを次々に閲覧するバッテリーテストを行ったところ、8.5時間とデルと東芝のノートPCよりも1時間長く持った(アップルのノートPC「MackBook Air(マックブック・エア)」よりは2時間短かった)。ただし、アイパッド・プロをタブレットではなくノートPCと位置づけたいのなら、充電端子の位置を変える必要がある。画面の真横からケーブルが突き出た状態で作業してみればその必要性が分かるだろう。
100ドル(日本では1万1800円)の純正スタイラス「Pencil(ペンシル)」は、アイパッドを素晴らしいメモ帳へと変えてくれる。大型のアイパッド・プロと異なり、9.7インチのスクリーンは会議でメモを取るときに腕にちょうどいい具合に収まる。
本当のノートPCが必要なとき
こうした数々の長所があるとはいえ、アイパッド・プロには1つ大きな問題がある。操作が処理に追いつかないことだ。つまり、純粋な処理性能は高いものの、より多くの作業を簡単かつ快適にこなすのに必要なツール――本当のノートPCでは当たり前とされているツール――が不足しているのだ。
アップルの使い勝手の悪いキーボード ENLARGE
アップルの使い勝手の悪いキーボード PHOTO: DREW EVANS / THE
WALL STREET JOURNAL
9.7インチのスクリーンに合うよう設計された窮屈な「Smart Keyboard(スマート・キーボード)」は、入力の際に肘を締めなければならず、飛行機で両側を挟まれた席に座っている気分になる。しかも、暗い場所での作業に不可欠なバックライトがない。スクリーンは1つの角度にしか調整できず、膝の上に載せて使おうとすると落ちてしまう。
ハードウエアの難点はこれだけではない。デルの600ドルのノートPCはストレージが128ギガあるが、アイパッド・プロはわずか32ギガだ。256ギガのモデルもあるが、価格は900ドル(日本では10万2800円)する。また、USB端子が3つあるデルや東芝のノートPCと異なり、アイパッド・プロにはUSB端子が1つもない。妥協策の1つは、イーサネットアダプターやマイク、USBハブを接続できるアップルの40ドル (日本では4500円)の「Lightning(ライトニング) - USB 3カメラアダプタ」を使うことだ。
すぐに解決できそうにない問題の1つがiOSだ。画面に異なるアプリを2つ並べて表示することはできるが、マルチタスクの実現にはまだ時間がかかりそうだ。例えば、「Safari(サファリ)」ブラウザーの2つのページや「Word(ワード)」アプリの2つのドキュメントなど、同じアプリのウィンドウを2つ並べて表示することはできず、「Google Docs(グーグル・ドックス)」など多くのアプリがそうした機能をサポートしていない。クロームブックやウィンドウズ・ノートPCの方が、絶えず画面にタッチすることなくアプリやウィンドウを簡単に並べ替えることができ、作業がずっと速かった。指よりもトラックパッドの方がたやすいケースは多々ある。
iOS 9では、異なるアプリを2つ並べて表示することはできるが、同じアプリの2つのウィンドウを並べて表示することはできない ENLARGE
iOS 9では、異なるアプリを2つ並べて表示することはできるが、同じアプリの2つのウィンドウを並べて表示することはできない PHOTO: DREW
EVANS/THE WALL STREET JOURNAL
ファイル管理機能の不足も、もう1つの大きな障害だ。従来のノートPCでは、どこにどのドキュメントがあるか、どのように保存、検索、共有すればいいかが分かっている。iOSの場合、「PowerPoint(パワーポイント)」のプレゼンテーション資料を電子メールで送ろうとしたところ、「メール」アプリでただ添付すればいいというわけにはいかなかった。まずパワーポイントを開き、送信するドキュメントを探し、「共有」ボタンを押してアップルのメール・アプリに送る必要がある。
アイパッド・プロのiOSは、「プロ」と呼ぶには単純にあまりにもモバイルOSに近すぎる。結論を言えば、アップルはモバイル端末とデスクトップシステムのほどよい妥協点を見いだす必要がある。
手持ちのノートPCを9.7インチのアイパッド・プロに置き換えられるかと聞かれれば、イエスと答える。しかし、ノートPCに代わる「究極の」製品かと聞かれれば、ノーだ。アイパッド・プロはノートPCよりも手軽で万能で持ち運びやすい別の種類のコンピューターだ。しかし、本当のノートPCは従来の作業をもっと手早くこなすことができる。少なくとも、今のところはそうだ。(ソースWSJ)
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